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研究トピック

No.6ブラジル産グリーンプロポリスの辛味成分の同定と作用メカニズムの解明

プロポリスは、ミツバチが植物の新芽や樹液を集め、自らの分泌物と混合して産生する樹脂状物質で、巣の不要な穴や間隙を埋めるとともに、その抗菌活性により巣内を清潔に保つ役割を果たしていると考えられています。プロポリスは、抗がん作用、抗炎症作用、免疫賦活作用などの多様な機能性を有することから、サプリメントとして広く利用されています。日本で利用されているプロポリスの多くはブラジル産のグリーンプロポリスで、そのエタノール抽出物はハーブ様の香りと独特の辛味を有しています。

アピ株式会社長良川リサーチセンターは、「なぜグリーンプロポリスのエタノール抽出物は辛いのか?」という根本的な疑問の解明に取り組み、研究を進めてきました。そして、今回、世界で初めてグリーンプロポリスに含まれる辛味物質を同定し、さらにその物質が辛味を惹起するメカニズムを解明することに成功しました。この成果はアメリカのオンラインジャーナル「PLoS ONE」誌に掲載されました(2012年11月2日電子版公開)。

まずブラジル産グリーンプロポリスのエタノール抽出液をODSカラムクロマトグラフィーにより分画し、それぞれの画分を実際に味見することにより辛味成分を含む画分を探索しました。辛味を感じた画分の精製と濃縮を繰り返した結果、この精製画分にはアルテピリンCが高濃度で含まれていることが明らかとなりました(図1)。さらに、高純度のアルテピリンC標品を用いて、健康な男女7名(20代〜60代)を対象に官能試験を実施したところ、0.225 mg/mLの濃度で全員が「明らかに辛い」と判定しました(表1)。以上のことから、ブラジル産グリーンプロポリスエタノール抽出物の辛味成分はアルテピリンCであると結論付けられました。

図1.ブラジル産グリーンプロポリスのエタノール抽出物と精製された辛味画分のHPLC分析

表1.アルテピリンC溶液を用いた官能試験

つぎに、アルテピリンCがどのような作用メカニズムで辛味を惹起するかを検討しました。代表的な辛味受容体であるTRPA1(Transient Receptor Potential Ankyrin 1)とTRPV1(Transient Receptor Potential Vanilloid1)に注目し、ヒトTRPA1およびヒトTRPV1をそれぞれ発現させた培養細胞を用いて、アルテピリンCがこれらの受容体を活性化するかどうかを調べました。

図2に、TRPA1に対するCalcium imaging assayの結果を示しました。陽性対照として、ワサビの辛味成分であるアリルイソチオシアネート(AITC)を使用しました。図2Aに示すように、AITC、アルテピリンC、バッカリンおよびドゥルパニンにおいてTRPA1の活性化が認められました。これらの応答は、TRPA1の特異的阻害剤であるHC-030031によって完全に消失し(図2B)、またTRPA1非発現細胞においては応答が認められないことから(図2C)、TRPA1特異的な応答であると考えられました。そこで、Plate reader-based assayにおける用量反応曲線から50%効果を示す濃度(EC50)を算出したところ、AITC、アルテピリンC、バッカリンおよびドゥルパニンのEC50値はそれぞれ6.2 μM、1.8 μM、15.5 μMおよび≧250 μMとなり、アルテピリンCは典型的なアゴニスト(作動薬)であるAITCの約3倍も強い活性を有することが明らかとなりました(図3)。

一方、トウガラシの辛味成分カプサイシンにより活性化されるTRPV1についてもTRPA1と同様の実験を行いましたが、プロポリス成分によるTRPV1の活性化は認められませんでした。

図2.プロポリス成分(アルテピリンC、バッカリン、ドゥルパニン、p-クマル酸)のTRPA1受容体に対する活性化能の検討

図3.プロポリス成分によるTRPA1活性化の用量反応曲線

以上の結果から、ブラジル産グリーンプロポリスの辛味成分がアルテピリンCであること、アルテピリンCは辛味受容体であるTRPA1を活性化することで辛味を惹起することが明らかとなりました。なお、TRPA1については辛味の知覚以外に、腸内の蠕動運動の亢進や腸内血流量の増加を引き起こすことが知られており、ブラジル産グリーンプロポリスの新たな生理活性への展開が期待されます。

Artepillin C, a Major Ingredient of Brazilian Propolis, Induces a Pungent Taste by Activating TRPA1 Channels

Taketoshi Hata1, Shigemi Tazawa1, Shozo Ohta1, Mee-Ra Rhyu2, Takumi Misaka3, Kenji Ichihara1
1 Nagaragawa Research Center, API Co., Ltd.
2 Functional Food Technology Research Group, Korea Food Research Institute
3 Department of Applied Biological Chemistry, Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo

PLoS ONE | November 2012 | Volume 7 | Issue 11 | e48072
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0048072