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研究トピック

No.9中国産プロポリスの脊髄損傷に対する治療効果

プロポリスは、ミツバチが巣の隙間を塞ぐため、あるいはその抗菌活性により巣内を清潔に保つために様々な植物の新芽や樹液を集め、自身の唾液と練り合わせて作った樹脂状物質です。また古くから世界各地で民間伝承薬として用いられ、最近ではサプリメントとして広く利用されています。しかし、プロポリスおよびその成分による神経細胞に対する作用はほとんど知られていませんでした。岐阜薬科大学分子生物学研究室 古川昭栄教授らは、強い炎症反応と神経細胞死を伴う脊髄損傷に対するプロポリスおよびその成分の損傷治療効果を調べており、アピ長良川リサーチセンターは試料提供や成分分析の面から、これらの研究に協力してきました。その結果、中国産プロポリスのエタノール抽出物およびその成分であるカフェ酸フェネチルエステル(caffeic acid phenethyl ester:CAPE、分子量:284)は、ラットの脊髄損傷モデルに対して顕著な治療効果を示すことが分かりました。この研究成果は、2011年に英文雑誌に2報にわたり掲載されました。

中国産プロポリスおよびCAPEによる脊髄損傷後後肢の運動機能回復

ラット第10胸髄の左側半分を鋭利な刃物で切断して脊髄片側切断モデルを作製し、損傷直後および損傷から24時間ごとに中国産プロポリスエタノール抽出液(ethanol extract of Chinese propolis; EECP)(固形分0.2、1および5 mg/kgになるようにリン酸緩衝化生理食塩水で希釈)およびCAPE(2および10 μmol/kg)を3~4週間にわたり腹腔内投与しました。対照群(vehicle)には、同濃度のエタノール溶液を含むリン酸緩衝化生理食塩水を腹腔内投与しました。損傷翌日より毎日Basso, Beattie, Bresnahan(BBB)scaleを用いて後肢運動機能を評価しました。
損傷を受けた左肢の運動機能は完全に麻痺しましたが、数日後、すべての群で自然に回復し始め、肢の裏で体重を支えながら歩行できるようになりました。 これに対して、1および5 mg/kg EECP投与群および10 μmol/kg CAPE投与群では、有意に運動機能の回復が促進されました(1 mg/kg EECP投与群の結果を図1Aに、 CAPE投与群の結果を図1Bに示す)。なお、0.2 mg/kg EECP投与群および2 μmol/kg CAPE投与群では効果は見られませんでした。

図1. EECPおよびCAPEによる脊髄損傷後の後肢運動機能回復促進効果
A) 1mg/kg EECP、B) 2および10 μmol/kg CAPE投与群の運動機能スコア
(BBB scaleによる評価)
BBB score; 平均±標準誤差(n=6-9)
**p<0.01,***p<0.001; Bonferroni post-test vs Vehicle.
中国産プロポリスおよびCAPEによる損傷部位修復促進作用

EECP(1 mg/kg)投与群は損傷14日後に、CAPE(10 μmol/kg)投与群は損傷28日後に、パラホルムアルデヒド溶液で経心的に灌流固定後、脊髄の凍結切片を作製し、アストロサイトの指標タンパク質であるglial fibrillary acidic protein(GFAP)の発現を免疫組織学的に解析し、損傷部位の大きさを対照群と比較しました。
その結果、1 mg/kg EECP投与群および10 μmol/kg CAPE投与群の損傷部位の大きさ(図の点線内)が、各対照群より小さくなっていました (図2)。

図2. EECPおよびCAPEによる損傷修復効果
1) EECP 投与対照群、2) 1mg/kg EECP投与群、3) CAPE 投与対照群
および 4) 10 μmol/kg CAPE投与群の損傷部位の大きさ
(免疫組織学的染色による評価)
中国産プロポリスによる炎症反応抑制および神経栄養性促進作用

誘導型酸化窒素合成酵素(inducible nitric oxide synthase ; iNOS)は損傷後早期に炎症を惹起することが知られています。また、神経栄養因子である脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor ; BDNF)およびニューロトロフィン-3(neurotrophin-3 ; NT-3)は軸索の再生や発芽を促進することが知られています。そこで、対照群および1 mg/kg EECP投与群の脊髄組織におけるこれらのmRNAの発現量を比較し、EECPによる脊髄損傷回復の作用機構を調べました。
試料は、初回のEECP投与直後、および損傷の1、3、7および14日後に、損傷部位を中心に吻側 2 mm、尾側 2 mm、合計 4 mmを摘出して作製しました。また、内部標準遺伝子としてβ-actinのmRNA量を測定し、一定量であることを確かめました。
その結果、対照群と比較して、1 mg/kg EECP投与群では、損傷1および3日後のiNOS mRNAの発現量が低く、損傷7日後ではBDNFおよびNT-3の両mRNA発現量が高くなっていることが分かりました(図3)。
以上の結果から、EECPは損傷脊髄の炎症反応を抑制し、さらに神経栄養因子群の遺伝子発現を高めることにより軸索再生を促す神経栄養性作用を示し、脊髄損傷後の運動機能回復を促進することが示唆されました。 

図3. EECPによる炎症反応抑制および神経栄養性促進作用
1) iNOS、2) BDNFおよび3) NT-3 mRNAの発現変化
(reverse transcription-polymerase chain reaction ;RT-PCR法による評価)
まとめ

ラットの第10胸髄左側半分を切断して作製した脊髄片側切断モデルにおいて、中国産プロポリスのエタノール抽出物およびその主要成分であるCAPEは運動機能回復促進作用をもつことが示されました。中国産プロポリスには、CAPEの他にもクリシン、ピノセンブリン等、抗炎症作用や神経保護効果を示す生理活性成分が多数含まれていることが知られており、それらが複合的に作用して脊髄損傷後の運動機能の回復を促進したと考えられます。
これらの結果から、中国産プロポリスおよびその成分であるCAPEは、脊髄損傷を始めとする多くの神経損傷疾患の治療における有用な素材となる可能性が示唆されました。

Ethanol extract of Chinese propolis facilitates functional recovery of locomotor activity after spinal cord injury
Masaki Kasai, Hidefumi Fukumitsu, Hitomi Soumiya, and Shoei Furukawa
Laboratory of Molecular Biology, Gifu Pharmaceutical University
Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine, 2011. Article ID 749627
http://www.hindawi.com/journals/ecam/2011/749627/

Caffeic acid phenethyl ester reduces spinal cord injury-evoked locomotor dysfunction
Masaki Kasai, Hidefumi Fukumitsu, Hitomi Soumiya, and Shoei Furukawa
Laboratory of Molecular Biology, Gifu Pharmaceutical University
Biomedical Research, 2011. 32(1) 1-7.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biomedres/32/1/32_1_1/_pdf